PARADOX=パラドックス=
辺りが静寂に包まれる。
アレックスはゆっくりとオレに歩み寄り、白い手袋をした手を差し出した。
「た……助かった。礼を言う」
オレはその手を握り返し、立ち上がる。
ようやく見た女の子はいまだに泥の上に座り込んでいる。
「礼には及びません。元はと言えば騎士団の怠慢によって、この地に闇のブローカーが増えてしまったのですから。
あなたを救えた事で自責の念にかられていた私自身が救われた気持ちです。生きててくれてありがとう」
アレックスはそう言って笑うと振り返る。
そして泥に座り込んでしまっている女の子の元へと歩み寄るのだった。
「辛かっただろう?
君もよく生きていてくれた。もう大丈夫だ」
ゆっくりと優しく、女の子の身体を支えながら立ち上がらせる。
アレックスは生気の全く感じられない女の子を見て、彼の顔をまじまじと見ていなかったら気づかなかったほどに僅かに眉をひそめた。
そして、自分を見つめていたオレに顔を向けて静かに言う。
「この子には迅速な保護と心のケアが必要です。一時的にですが、我々悠久の騎士団が身を預からせて頂きます。
今日ここであったことは他言無用でお願いしますね」
アレックスはそう言って笑うと、手をあげた。
すると崩れたバリケードの影から白衣を着た2人の男が出てきた。
その白衣の胸の所にも二枚翼の聖十字が描かれている。
「この少女を本部まで連れていきなさい。
私は彼を安全な場所まで送っていきます」
「はっ!」
はきはきとした声を返し歩き始める白衣の男の一人をアレックスが呼び止めた。
そして身元で何かを呟く。
「……貴重なブレイグルの娘です丁重に扱いなさい」
「……はっ、承知しました」
またきびきびと歩き始める二人。
白衣の男達は女の子の手を引き、去っていく。
その時、君の悪いほどに強く、泥を踏み鳴らす足音がオレの頭の中をこだましていた。