PARADOX=パラドックス=
少しずつ離れていく女の子。
「……?」
ずきっと頭の横が痛んだ。
すると女の子が小さく振り返り、また目があう。
「いや……行きたくない……行きたくないよ……助けて……!!」
「なっ」
女の子の口は少しも動いていなかったのに、確かにオレには聞こえた。
悲しい瞳、白衣の男、連れ去られていくーーーー
これは、あの時のーー
「ぐぁぁぁぁぁあっ!!」
突然頭が割れる様に痛みだし、オレはその場にうずくまった。
両手で必死に頭を押さえるが、痛みは欠片ばかりも減ることはなく、頭の中を掻き散らす。
突然のことにアレックスはただ立ち尽くしている。
白衣の男達も急な断末魔に足を止めて振り返った。
それを見たアレックスが、顎で指して無言で「行け」と合図をした。
「大丈夫ですか?何か持病をお持ちで?
医療班を呼びますか?」
アレックスはオレの背をさする。
がたがたと震える身体。
全身に痺れが走り呼吸もおぼつかない。
「……だ、大丈夫だ。こう見えても潜りだが医者だ。
自分の身体のことは誰よりも分かってる。
精神的な外傷による一時的な錯乱だろう。5分もすれば治るさ」
「スラムの若き医師……そうか、あなたがシド先生だったのですね?」
しばらくして頭痛が治まると、オレは3分越しの質問に答える。
「はぁはぁ……確かにオレはシドという者だが。
騎士団様に名を知られる様な者じゃないよ」
痛みの余韻がズキズキと響く、手で頭を押さえながら立ち上がる。
そして歩きだした瞬間だった。
「ぎゃぁぁぁぁああっ……!!」
静寂に包まれていた辺りに響き渡る声。
白衣の男達が進んで行ったであろう前方からだった。