PARADOX=パラドックス=
「……おいおい、あり得ねぇだろうがよ」
黒い雲を突き破り降り注ぐ光。
まるで流星群の様に魅惑的に、まるで世界の終演を告げるかの様に残酷に大地を射つ。
「……くそっ、流石は"炎熱"のアレックス。私如きの勝てる相手では無かったか。
だが忘れるな我ら『スティグマ=聖痕=』は必ずその不敗の兵器『黒涙』の一族を手に入れるぞ!
ふはははは……はーっはっはっは!!」
天から降り注いだ光に身体を貫かれ、燃え盛る男の身体。
焦げるでもなく焼けるでもなく、一瞬にして細胞の悉くが灰となり、その灰すらも燃え尽きて欠片1つ残さず男はこの世界から消滅した。
「……人が、消えた?」
アレックスはゆっくりとオレに歩み寄ってきた。
あり得ない戦いを見られたことへの報復というわけではなさそうだ。
先程と寸分変わらぬ柔らかな表情。
だがオレの身体は彼への、人を殺した人物への恐怖に逆らうことができず後退りをした。
「お怪我はありませんか?シド先生」
差し伸べられたのは人を殺やめた手。
オレは無意識にそれを振り払っていた。
「今のはいったい何だったんだ……
魔法?そんなもんは信じねぇ、お前等いったいなんなんだよ!?」
オレの叫び声が闇に吸い込まれていく。
アレックスはふと悲しい顔をして笑った。
「我々は『ブレイザー』、神の遺した兵器『ブレイグル』を操る騎士です。
そして彼らは、そんなブレイグルを手にし世界を転覆させようとする悪なのです」
目の前で起きた現実を頭は必死で否定しようとしている。
散ってしまった命を救えなかった苛まれる心を必死で否定しようとしている。
しかしそれは否定など叶わない事実であり。
オレはもう逃げようのない所まで見てしまったのだ。
この世界に存在する現実の裏側を。