PARADOX=パラドックス=
緋色の槍に揺らめく炎がまとわりつく。
「ホニカ、加減は要らないよ……否。
加減などすればこちらの命は瞬く間に消え去られる。いくぞ緋槍奥義」
斜に構えたアレックス。
真っ直ぐに切っ先が女の子を捕えている。
超高熱の炎は尚も勢いをましアレックスの身体の倍はあろう炎を形作る。
オレは無我夢中で叫んでいた。
「やめろ!何の罪もない女の子に刃を向けることがお前らの言う正義なのか!?
アレックス!!!」
煌めく炎に照らされたアレックスの顔はどこか寂しげで、深い憎しみに満ちていた。
「私の敬愛してやまない兄は、彼の戦争で黒涙の一族の手にかかり死んだ。
戦争さえなければ兄は最愛の人と結ばれ幸せが確約されていたのに。
この恨み晴らさずに何が正義だと言うのだ!!」
アレックスは憎悪の全てを込めて女の子に切っ先を向ける。
次の瞬間、アレックスの鋭い踏み込みで地面が弾けた。
「『鳳仙火=ホウセンカ=』!!」
人の成し得るスピードは遥かに越え、アレックスは一瞬にして女の子の目の前へと移動する。
「やめろぉぉぉぉおっ!!」
中に割って入ることすらできない。
伸ばした手からあっという間にアレックスは離れて行ってしまった。
この手は何の為の手だ?
幾人もの倒れる人々を見てきた。
救えるはずの命を放置して後悔に蝕まれた夜を幾度越えた?
この手は命を救う為の手になったはずだろ?
それなのに、それなのにこんな……
「うわぁぁぁぁあっ……」
アレックスが槍を突くとまとわりついていた炎が爆発を起こし、まるで花が咲くかの様に当たりに燃え移る。
バチバチと大気が焦がされ、オレは足から力が抜けてその場にへたりこんだ。