PARADOX=パラドックス=
閃光の様な光が止み、しばらくは視界が白に包まれていた。
炎が晴れて、舞い上がった土煙が視界を覆い尽くしていたのが目で分かるようになった時。
オレは自分の手を見つめていた。
小さな……小さな手だ。
目の前で散る命を救うどころか、犠牲になってやることもできなかった。
くそっ……くそ。
地面に思い切り叩き付けた拳。
じわりと滲んだ血と、ズキズキとする拳の痛み。
そしてやり場のない怒りが虚しくさせる。
「ねぇ……泣いているの?」
ふいに聞こえた声にオレは顔をあげた。
ザッザッと土を蹴る音がして、土煙に影がうつる。
「……だれ?」
土煙から姿を現した女の子。
そっとその細い手がオレの頬に触れる。
その身体には一筋の傷も残ってなどいなかった。
「無事だったんだな。良かった。
アレックスめ、オレを試したな……?」
安堵から大きく息を吐いた。
辺りを見回すと次第に土煙が晴れていく。
さっきまで女の子がいた場所にもう一つの影が見えた。
アレックスだ。
あんな場所でオレを嘲り笑っているのだろう。
「まったく冗談が過ぎますよ騎士様。
――なっ!!?」
オレは息を飲んだ。
そこには黒い諸刃の刃で全身を貫かれ、座ったまま瀕死で息をするアレックスの姿があったのだ。
傍らには今まで居なかった少年が涙を流しながら、アレックスの止血をしていた。