PARADOX=パラドックス=
ポタっと何かが地面に落ちて、それが蠢くと地面が突き破られる。
「……く、黒い涙?」
女の子の頬を伝う気味が悪いほどに純粋な黒の雫。
その軌跡は気味が悪いほどに綺麗で、背筋が凍るほどに美しかった。
「……どうして、怪我しているの?」
女の子がそう呟き、オレは半歩下がっていた。
ただ純粋に恐ろしかったのだと思う。
この女の子の放つ不自然な自然さが、ただ恐ろしかったのだ。
「そうだ、あんた医者なんだろ?
アレックスを助けてやってくれよ。なぁ!頼むよ!!」
ホニカがオレの腕を引っ張り言う。
女の子は不思議そうにアレックスを見つめていた。
「まさか……」
自分がやったという自覚がないのか?
その頬を伝う黒い涙の異常さに気が付いていないとでも言うのか?
そんなバカな話があるのか?
「頼むよシド先生!」
「――はっ、あ、ああ」
ホニカの叫びに我に返ったオレは急いでアレックスの元に駈け寄った。
「ひでぇなこりゃ。生命維持に必要な臓器を根こそぎ引き裂かれてやがる……
出血も広範囲に深く見られる、呼吸も浅く、脈も……」
診断の必要もない。
これはもう助からない――