PARADOX=パラドックス=
ルーザは窓の外にその白い煙を吐き出して小さく言った。
「あんた達……今日にでもこの地から去りな」
「……は?」
ルーザはゆっくりとベッドに近づき、すやすやと眠るネオンの額を撫でた。
ネオンは「んんっ」と寝息をたてる。
ルーザはベッドの端に腰かける。
「今回の件で騎士団はおろか、闇のブローカー連中、それにスティグマにも"黒涙"の存在が知られてしまった可能性がある。
奴らは黒涙を狙って必ずこの地にやってくるだろう」
優しく撫でるしわくちゃの手。
その手が何故か悲しげにも見えたのは、気のせいではないようだ。
「だ、だからって何でオレがネオンと一緒にここから出ていかなきゃならないんだよ?」
オレはイライラを誤魔化す為にタバコを取り出した。
しかし、タバコは空だった。
行き場のなくなった視線をルーザへと向けると、彼女はじっと真剣な表情でオレを見つめていた。
「理由は言わなきゃならないかい?」
胸に新品のタバコが当てがわれる。
はっきりと口にはしていないが、「自分で分かっているんだろ」と言っているのだ。
「あんたが何を思いこの子を助けたいのかは知らないが……
この子の存在は戦争の引き金になりかねない。いや、今はその存在が知られただけだが、誰かの手に渡れば間違いなく戦争が起こる。
不幸な偶然だがあんたはそれを阻止できる可能性がある。なら」