PARADOX=パラドックス=

オレはタバコに火をつける。

「はぁ。分かってるよ


……『ノーブレス・オブリージュ』だろ?」

オレのその言葉にルーザは愉快そうに笑った。

「そうノーブレス・オブリージュ、持てる者の義務さね。

それは本来は自己の責任、尊厳の保持の為の言葉だが、持たざる者からの外的圧力とも取れる。

良い言葉だろう?」

全く。

この言葉は耳がタコになるくらいに昔から聞かされていた。

資格はねぇから『先生』と呼ばれることに抵抗はあるが、医師を志したのもこのルーザの言葉によるところが大きかった。

「……義務を果たすなら何かしらの権利が与えられるはずだが、今回はそうもいかなそうだな」

ため息に白い煙を混ぜて吐く。

白いそれは天井付近までのぼって、すっと消えた。

「なに、平等に与えられる義務と権利なんかどの世界にもありゃしないよ。

だがま、それだけの大仕事だからね僅かばかりの報酬をやろう」

「報酬だ?」

ルーザは先ほど開けた窓とカーテンを閉め、施錠する。

そしてオレの耳元で話し始める。



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