PARADOX=パラドックス=
オレはネオンを揺さぶり起こす。
「……んっ」
「おはよう」
ネオンは目を開けてオレを見るなり壁際にまでとびのいた。
隅でガタガタと震えるネオンをルーザが歩み寄り抱き締める。
ネオンは仕切りに部屋のなかを見渡した。
初めてこよ部屋に入った時と同じだ。ネオンは朝起きたらそこが安全な場所であるかを確かめる必要があるのだろう。
日替わりで違う場所に幽閉され、時には知らない男と二人きりにされる。
そんな生活を送っていた少女が、どうにかして自分の命を守るための方法として編み出したのが、自分のおかれた環境を随時確認するという、この行為だったのだろう。
ルーザに抱き締められながら、一頻り確認を終えると、少しずつ身体の震えが止まっていく。
「怖がらなくて良い。あたし達はあんたを傷つけてきた連中とは違う。
もう大丈夫さ」
ルーザはオレは聞いたこともない優しい声でネオンにそう言った。
そして、優しくネオンの額に唇を重ねた。
ネオンは僅かに目を見開いた。
そしてほんの少しルーザを見つめて、また視線を床に落とすのだった。
「さ、お別れだネオン」
ルーザはネオンを離して立ち上がると、扉を開けた。
「これからはこの男があんたを守ってくれる。
見かけはチンピラだが」
「おい、誰がチンピラだ」
ルーザは笑う。
「いや、辛気くさくなるから止めておこう。
またスープを飲みにおいで、いいかいネオン?」
ルーザはネオンにそう言った。
ネオンは何も答えなかったが、きっと嬉しかったんだと思う。
自分のなかに芽生えた初めての感情に驚いて、ネオンは襟元をそっと触った。
オレはその姿を見て、何故だかは分からないが、この子はまだ普通の生活に戻れる。そう思った。
考えてみれば、オレは生まれてこの方、この土地から出たことがない。
無論、ネオンを連れて身を隠す場所に心当たりもあるはずがなかった。
オレはルーザに振り返る。
「…………それで、オレらは何処にいけば良いんだ?」
自重でこぼれ落ちそうになっていた灰を灰皿に落として、短くなってしまったタバコを吸う。
ルーザは僅かに明るい朝を背にして言う。
「この世界の全ての植物が生まれた場所
――森の都リンクタウン」