PARADOX=パラドックス=
光りなき地から東方に十四里。
スラムを出て一日と12時間が過ぎていた。
そこでオレは数十年ぶりの日の光を浴びた。
「……なみだ?」
無意識だった。
その暖かさに、光に、開けた空に。
ただただ無意識に涙が頬を伝っていた。
「ゴミが目に入っちまったんだよ」
痛いほど温かな。
悲しくなるほど煌めいた。
沈みはじめたその太陽はただ美しくて、オレ達はこうして目の当たりにしなければ思い出せない程に
太陽(こいつ)のことを忘れちまっていたんだな。
そんなこと思ったからかな?自然と零れていたんだよ。
「さぁ行くぞ。リンクタウンはまだまだ先だ」
オレの言葉にネオンは何も答えず後ろをついてくる。
オレはこの時に初めて思った。
オレ達の街に光が戻れば良い。ではなく
オレ達の街に光を戻せれば良い。と――
それから2時間ほど山道を歩き続けて、急にネオンの足が止まった。
「どうした?疲れたのか?」
ネオンはゆっくりと右足を出す。
すると右足が地面についた瞬間にわずかに顔を歪めた。
「……おい。
ちょっと足を見せてみろ」
オレはネオンを木の根に座らせ、違和感のあった右足を出させた。
スカートを足が見える様にまくりあげると、一瞬目を背向けてしまいそうになるほどに、細く痩せてしまった足が見えた。
靴を脱がせると足の裏は新しくできたマメが潰れて出血していた。
「痛みがあったら言えよ?
とりあえず応急処置はしておこう」
オレは持っていたボロボロの鞄からガーゼと包帯を取り出した。
「……なにか消毒になる植物は」
辺りには生い茂った緑がある。
オレはある1つの草を見つけた。
その草を根本から刈り取ると、手のひらの上で磨り潰す。
「ちと匂いはきついがこの葉には解毒作用もある。
少ししみるぞ。我慢しろよ」
磨り潰して出てきた液体を潰れてしまったマメに直接塗り込む。
「……んっ!」
「我慢しろ。出血したままこんな山道歩いたら破傷風になりかねない。」
ネオンは口の前で手を握り痛みをやり過ごす。
出血部分以外についてしまった液体を拭き取り、包帯を優しく巻く。
その様子をネオンは不思議そうに見ていたのだった。