PARADOX=パラドックス=
この土地は元々『フリージア:自由都市』と呼ばれていた。
この世界を統治する政府機関、その中で警務を担う軍隊『悠久の騎士団』の本拠地があることで知られていた。
しかし26年前の巨大隕石の落下によって悠久の騎士団の本部は壊滅。
今は王都『シリウス』近郊に本部を移したと聞いている。
今でも時折、悠久の騎士団がここにやってくることがある。
このスラムでは人身売買や違法薬物の取引が日常茶飯事だから、取り締まるため……いや体裁を保つ為にやってくるのだろう。
遠くに見えるボロボロに引き裂かれた旗が揺れる。
二枚翼に聖十字のそれは悠久の騎士団のマークだった。
皆がそれを引き裂いた。
怒りを悲しみを、やるせなさを、どうしようもない失意を、それに向けるかのように。
しかしそれでもその旗を処分する者は一人として現れなかった。
ここが最果ての掃き溜めということ無論あっただろう。
だがそれだけではない。
やるせなさも憤りも、この世のどんな言葉を尽くしても、どんな手段を以てしても消えることはない。
だがそれでも、心の隅の閉じられてしまった扉の最奥の部分で誰もが国家に救われることを願っているからに思えてならない。
あれは我々の絶望の象徴であり、また我々の希望のシンボルでもあり続けるのだ。