PARADOX=パラドックス=


熊は振り上げた爪を思い切り振り下ろす。

「ふっざけんな、食われてたまるか!」

オレは横っ飛びで爪を回避して、ネオンを抱えあげる。

「ガゥゥアァァッ!!」

久々の餌だったのか、はたまた食い意地がはっているのかは分からないが、

逃げ出したオレ達を血相変えて追ってくる。

道はなだらかな上がりの坂道。

分が悪い。

「シド、熊さんが追い掛けてくるよ。

追い付かれちゃうよ」

「分かってる!

だけど、熊ってのは足早ぇし、坂道が得意なんだよ」

その大きさから鈍重と思われがちだが熊は人間より遥かに足が速い。

しかし下りの坂道で出会った人間が無傷で逃げ仰せたケースが多々存在する。

それは熊の前脚が後脚よりも短い為に、下り坂では上手く走ることができない為であった。

しかし、今は上り坂。

この場合、筋力で遥かに劣る人間には不利だった。

巨大熊はどんどん差を縮め、ついには手を伸ばしたら、背負っているネオンに届いてしまう距離にまで追い詰められていた。

「グォォォォォォッ!」

熊はゆっくりと爪を振り上げる。

「ちょ、まじでふざけんな。

こんなところで死んでたまるかよ!!

――って、うわぁあっ!」

熊の位置を確認する為に後ろを見ていたオレは、何かに思い切りつまずいて転倒する。

前方に投げ出されるネオン。

熊の足音がすぐ後ろで止まった。






< 51 / 87 >

この作品をシェア

pagetop