PARADOX=パラドックス=
「ちっ、本当に煩いガキだな」
一目散に逃げるオレ。
すると熊はようやく気を取り戻したようで、その場で腕を上げて雄叫びをする。
「ガキ?ガキっていったわね?このおしとやかで麗しいミュールちゃまに!」
オレはガミガミと文句をたれるミュールから、1ミリでも鼓膜が離れる様に首をそらす。
「そろそろ離ちなさいよ、オヂサン。
あたちには待っている人がいるんだからーっ」
ミュールが暴れるとたまたま振り回した腕がオレの額を強く打った。
バランスを崩したオレがミュールに覆いかぶさる様にして地面に転がる。
「ガゥゥアァァッ!ガァァァァァッ!!」
ここぞとばかりに距離を縮めた熊。
振り上げた両の手を一斉に振り下げる。
くそ、逃げられねぇ。
万事休す――か。
「た、た、助けてキラちゃーーんっ!!!」
ミュールが誰かの名を呼び叫んだその時。
ふわりと布生地が視界で揺れて、誰かが熊の前に立ちふさがった。