PARADOX=パラドックス=
「キラちゃん」
ミュールはもぞもぞとオレの下から抜け出して、その人物に駆け寄っていった。
「どうかしたの?キラちゃん」
キラちゃんと呼ばれたその男(おそらくだが)は、今しがた自分が仕留めた熊を見下ろしていた。
「目が白く透き通ってしまっている。
鳴き声にもおかしな点があった。
おそらくは重大な病を抱えていたのだな、苦しかっただろう?」
独り言にしては少し大きいくらい。
だが、誰かに対して言ったわけではないのだろう。
そういうとその男は背を向けて歩きだした。
「ちょ、お礼くらい言わせてくれよ」
男はオレの声など聞こえていないかの様に歩き去って行く。
「あんたのおかげで命が救われた、礼を言う」
やはり返事はなかったが、代わりにミュールが振り返り、オレに向けてあっかんべーをしてきた。
2人は森の中へと消えていく。
「……ねぇ、シド。
結局リンクタウンって何処にあるんだろうね?」
草影から出てきたネオンがそう言って気付いた。
「あ、リンクタウンまでの正しい道を聞くの忘れてた……」
はははは、と力の無い笑いが虚しく消えていった。
オレとネオンはそれから三時間さ迷い続け、ようやくリンクタウンへとたどり着くのであった。