PARADOX=パラドックス=
スラムの奥、隕石の落下跡近くにルーザの店はある。
「あら、いらっしゃい坊や」
ルーザはオレを迎えるなりに不敵にほくそ笑む。
歳にあわない胸元のはだけた真っ赤なドレスに身を包み、葉巻をプカプカとふかしている。
「タバコが切れちまったんだ、いつものやつあるかい?」
埃っぽい店。
所々にひび割れや腐った部分のある壁面。
古びた頑丈なカウンター。
ルーザはカウンターの下から、オレのお目当ての銘柄のタバコを投げ渡す。
「へへっ。この御時世によく手に入ったな」
「ふん、うちに置いてない商品なんかありゃあしないよ」
ルーザは手をパタパタと振り「舐めんじゃないよ」と笑う。
「流石は悠久の騎士団ですら一目置いたとされるブローカーなだけはあるってか」
「そんな昔の話はおよしよ、今じゃただのしがない雑貨屋の店主だよ」
白い煙を一つ吐いてルーザはオレを見つめ笑う。
オレは床に視線を落としため息を吐いた。
「……へいへい、何がお望みだい?」
この世界の通貨は共通している。
しかし、ここは例外だ。
ゴミ捨て場にも金貨が落ちていることもあるが、それはここでは一銭の価値も持たない。
ここでの原則は物々交換。
しかし物と物との交換である必要はない。
要は得るものと同価値のものを相手に与えれば良いのだ。
それが物であれ人であれ、情報であれ名誉であれ。