PARADOX=パラドックス=
入ってきたのは15、6歳くらいのスラっと背の高い娘だった。
娘は床に正座させられている老人を見て「あぁ」と呟いた。
「また、お祖父ちゃんが何か迷惑かけました?」
娘は背中に背負っていたバカデカイ荷物を下ろしながら言う。
「ごめんなさいね。
ここ最近は棺で葬っていく風習も廃れてきちゃってて、たまにお客さん来ると嬉しくなっちゃうみたいで」
娘はツカツカとオレに歩み寄る。
そして歳の割りには荒れてしまっている手を差し出した。
「私はそこの棺屋のアジェットの孫娘で、リリネッタ・カーマイン。
皆からはリンて呼ばれてるわ」
「あ、ああ。
オレはシドだ」
手を握り返すと、手は荒れているだけではないと分かった。
マメか?いやマメが幾度となく潰れ、皮膚自体が極限まで硬化されている。
リンはゆっくりと視線をオレの背中に移した。
「り、リンや。
その娘は……」
「うん、分かってるよお祖父ちゃん」
ネオンを見つめるリン。
珍しいな……ネオンが初めて会う人に怯えていない。
リンはふと微笑み、口を開いた。
「どうやらルーザの紹介のようね。
あのオバサンまた厄介な客を寄越してくれて……」