PARADOX=パラドックス=
店を出た俺達を待っていたのは、十中八九店の中にいた野郎共の仲間であろう屈強な身体をした男がざっと20人。
それぞれが木製の刀や、片手に収まる拳銃を持っている。
「……ちっくしょう」
オレは立ち止まる時、無意識にネオンを背中に隠していた。
護りたいからか、それとも。
「そんな顔しないでくれよあんちゃん。恐くて震えちまうじゃあねぇか」
「そうだよオレらだって喧嘩は好きじゃねぇんだ。そんな顔して睨むなよ?
がはははは」
男達は口々に嘗めたことを吐き散らしてくれる。
怒りもあったが、この状況がそんな安い感情ひとつでどうにかなるものではないと理解して、オレの頭は割かし冷静だった。
後ろの扉が開いてゆっくりと三人の男が現れた。
「なんだ鬼ごっこが始まったかと思ったら、こんな所で日向ぼっこかい?」
「それとも、やっぱりそのお嬢ちゃんを渡してくれる気になったかな?」
選択肢は二択あるが顛末は決まっている。
逃げることは不可能。
選ぶのはオレが死ぬか死なないかの小さな選択。
「……さぁて別にこの世界にゃ未練はないんだがね」
オレは一歩前に出る。
男達がそれを見て、各々持っていた武器を構える。
「でもよ……」
後ろを見るとネオンが顔を伏せて震えていた。
小さく、少女の様に。
「オレが死んじまったら誰がこいつの面倒見るんだ!
こいつにはまだまだ常識ってやつを叩き込んでやらなきゃならないんだよ!!」
踏み出した。
男達が引き金に手をかける。
全ての殺意はオレに向けられ、心臓はあの指が動けば鉛の弾に突き破られる。
だけど走馬灯とか言うやつは見えなかった。
思い出す事もねぇのかもしんないけどな。
「ガキには当てるなよ。
その男を殺せぇ!!!」
合図と共に辺りに何十発もの銃声が響き渡った。
動物がその音に危機を感じで散らばる。
「死んで……ねぇ?」
一瞬意識が消えた。
そして目の前には薄緑色の何かがあった。
弾丸はその回りで力なく地面に転がっていた。
「よく言ったねシド先生。
あなたの覚悟しかと受け取った」
そこに現れたのはさっきのキザ野郎だった。
左手には先程は見えなかったエメラルドの様に美しいブレスレットを着けていた。
「あいつは……」
男達の中の幾人かは気づいた。
「初めましてシド先生。
私はジャック。ジャック・レオンハート」
その時吹いた風がジャックのローブをはためかせた。
そこに見えたのは二枚翼に十字の描かれたマーク。
「あんた悠久の騎士団か?」
「ご明察」そう言ってジャックは微笑んだ。
「どうする?あんなやつ相手にうちらじゃ話にならないぞ」
「バカ野郎、逃げた所でどうせあの人に殺される」
「だったら……」
男達は粛清の恐怖から自身を奮い立たせていた。
つまりこいつらの後ろで手を引いている者がいる。
こいつらはその人物からネオンを捕まえるよう指示された駒ってわけか。
「良いね。敵とは言え、無法者とはいえやはり決意の眼差しというのは輝いている。
なればこそ私の全霊でもって応えよう。この"四天"のジャックがね」