PARADOX=パラドックス=

男達はジャックに向かって一斉に襲いかかっていく。

どなり声をあげながら鈍器を振りかざし、ある者は銃口をジャックに向ける。

ジャックは360℃周りを武装した敵に囲まれても焦り1つ見せてはいなかった。

「君たちの一掃も任務の内だが、今は少し気分が良い。

峰打ち程度で済ませてあげよう」

ジャックのつけていたエメラルドの腕輪が強く光る。

ジャックはその腕輪がついた左腕を大きく回す。

「なっ!!」

するとジャックが空を切ったその先の地面が圧砕されて土ぼこりをあげた。

「何だ今のは!」

「あいつ何も見えねぇが何かを持ってやがる!」

「全員気を付けろ!!!」

次の瞬間。

「……気を付ける?」

ジャックが流れるように数度手を切ると、大地は蛇の様にクネクネと亀裂を描き、男たちは見えない何かに弾き飛ばされる。

まるで回した独楽が弾かれるように軽快に吹き飛び、男たちは地面に突っ伏して気を失っていた。

「君たちごときが私の力を気を付けた所で結果は何も変わらないよ。

さぁ…………」

その時、オレは何も気付くことができなかった。

自分の右側、ちょうどネオンがたっていた場所から物音があり、風が吹いた。

振り返るとそこには居たはずのネオンの姿が見当たらない。

「……!?

ネオン?」

辺りを見渡す。

先程まで威勢の良かった男達が倒れ、ジャックの表情が曇っている。

「……シド」

遠くからのネオンの声にオレはようやく見つけた。

そして、ネオンが連れ去られてしまった事実に気付く。

「この娘はもらったよ。

四天のジャック残念だったね。この力を使い近いうちに我々は悠久の騎士団を壊滅させ世界を支配する」

真っ白なローブに身を包んだ謎の人物。

顔も見えず、声からは若くも老いてもいない男性であるように感じた。

「シド……シド……!!」

ネオンが小さな声で叫んでいるのがわかった。

感情がかき混ぜられて正気を失うのではないかと思うほどネオンの声は震えていた。

「ネオンやめろ!!!」

オレは思わずそう叫んでいた。

次の瞬間、オレはネオンのフードの内側で黒い涙が頬を伝うのを見た。

黒涙がローブの内に消えながら蠢いた。

「……離れろ!」

オレは初めて出会った悠久の騎士団アレックスの全身が黒涙の刃で切り刻まれた姿をフラッシュバックしていた。

ローブが波打ち、そして何かが姿を現そうとローブを鋭利な角度で持ち上げる。

「これが黒涙の……だが」

大地を鉄を身体を全てを貫いていた黒い刃が現れない。

それどころか帛一枚のローブすらも破れずに行き場をなくして暴れている。

真っ白なローブの男は愉快そうに笑った。

「真に素晴らしきはこの封套かな?黒涙の刃をも一時的ではあるが完全に抑え込むか」

男は手を翳して、ネオンの首の後ろを狙って降り下ろす。

「かっ!」


ネオンは力なく崩れ落ち、男の腕に抱えられながら気を失った。

「シド、君は最高のプレゼントを届けてくれた感謝するよ」

そう言って男が踵を返す。





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