大吉男と大凶女
「謝るなって。そんじゃ、俺そろそろ帰るわ。まだ一仕事残ってるもんでね。お前らも早く帰った方がいいぞ。卒業式の打ち上げを楽しみにしている先生達からの視線が痛いからな」

そう言って俺は二人から背を向けて歩き出した。の、だが

「あ、吉野くんっ」
「ん?」

恭子に呼び止められた。

「何か手伝えることある?」

と、親切にも聞いてきた。一瞬俺の中に躊躇いが生まれたのはもちろんだが、それよりもなんかこう……恭子ってずるいな、と染々思った。

「あー……大丈夫。学校出てからの話だから」
「そっか、わかった」
「あぁ、んじゃ」

と、止めていた足を動かし始めた。恭子が一瞬手を振るのが見えた。

「じゃあねー」

と、呑気な挨拶が飛んでくる。とりあえず俺は手を上げておいた。

教室を出て階段をゆっくりと降りる。今なら未奈美が俺に対してあんな態度をしていたかがよくわかる。

恭子の手の平には無数の擦り傷があった。もうかさぶたになって、血は止まっているみたいだったが……

「なるほど、ね」

未奈美の言いたいことは、かばうならかばうできっちりかばいなさいよ、ということだったんだと、今は思う。
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