大吉男と大凶女
「いいよ、寝てて」

無理矢理起きようとする歩美さんを制して、再び横にならせ、布団をかぶせる。

「わるいわね、迷惑かけて」

布団で口元を隠しながら、小さな声でささやいた。歩美さんは一見、見た目だけなら清楚な感じなのだが、実際は清楚のせの字も感じられないほどさばさばしている。それはこの言葉使いからもわかるはず。

「歩美さんの迷惑ならもう慣れてるから」
「むっ、言うじゃない」

眉間に皺をよせて言った。俺は小さくため息をつく。

「しかし歩美さんもツイてないね」
「まったくだわ」

未だに高熱があるのにも関わらず、言葉だけは強いものがある。まぁ声は若干弱々しいのだが……。

「初めて自分の限界を感じた気がしたわ」
「何もそれを卒業式に感じなくたって……」
「運が悪すぎるわね。確かに昨日辺りから調子が悪かったのよ」

真っ赤になっている頬が隠れるまで布団を被ると、ハァとわざとらしく聞こえるような大きなため息をついた。

「せめて薬だけでも飲んでくれば良かったわ」

と言い、とうとう布団にもぐってしまった。
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