大吉男と大凶女
その矢先だった。

「ごめん、遅くなったわ」

と、手にいっぱいの荷物を持って千里先生がカーテンをあけて入ってきた。

「まったく、職員室に入ったら今夜の卒業式の打ち上げがどうたらこうたらで捕まったわ。こっちはそれどころじゃないってのに」

手に持っていた荷物をどさどさと床に落とす。俺はその中から歩美さんの手荷物とコートを拾い、歩美さんの眠るベッドの上に置いた。

「悪いわね。無理をお願いしたうえに待たせちゃって」
「大丈夫です」
「歩美は?」
「さっき寝たところです」

自分の物を拾いながらそう、と呟いた。

「じゃ、後少しくらい寝かせましょう。何か急ぎの予定でもある?」
「いや、特に無いんで」
「そう、なら大丈夫ね」

そう言って千里先生はカーテンの外に出ていったので、俺もその後ろを追い掛けた。

今さらだが、保健室には小さなテーブルと小さなソファが備えられている。俺が捻挫の治療の時に座ったのは、本当に簡素なパイプ椅子だ。

先生と俺は向かい合うようにテーブルをはさみ、ソファに座った。

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