大吉男と大凶女
「お茶でも飲む?」
「頂きます。ちょうど喉渇いてたんで」

先生はおもむろに立ち上がり、ヤカンに水を入れ、コンロに火をかけた。

「悪いわね、大人の都合で手伝わせちゃって」

お湯が沸くまでの時間、俺と千里先生は会話をたしなんだ。

「まぁ、しょうがないんじゃないすか?歩美さんの事情もありますし」
「本当ならきっちり家まで送り届けたいところだけど……」
「大丈夫ですよ、慣れてますから」

そこからは歩美さんの家庭事情と、近所だった俺の家との関係を話した。早い話が、歩美さんは母子家庭で、母親は仕事が忙しい。そこで土日など、小さい頃は近所の俺んちに預けたり、と、つまりは親密な近所付き合い、という訳である。

「ふぅーん。道理で家に連絡しても誰も出ない訳だ」

千里先生は納得、といった感じで、急須にお茶の葉とお湯を入れた。俺はその間に湯飲みを二つ、棚から持ってきて、またソファへ体を預けた。

「はい、どうぞ」

と千里先生は湯飲みにお茶を注いだ。明らかに熱い。湯気がすさまじかった。

「まぁ、しかしあれね」

熱いのをものともしないといった感じでお茶をすすりながら千里先生は続けた。
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