大吉男と大凶女
「さて、歩美には申し訳ないけどそろそろ行きましょう」

千里先生は俺の分の茶碗も持って立ち上がると、カチャカチャと音を立てながら軽く水洗いをし、棚へと戻した。

「それじゃ、私はちょっと昇校口に車を寄せておくから……歩美起こしておいてね」

と言ってそそくさと保健室を出ていった。歩美さんを起こすのが嫌なんだな。歩美さんは非常に寝起きが悪い。自然に起きた時は良いのだが、外側から起こされたら最悪だ。

まぁ俺はもう慣れていますが。

俺はカーテンを開けて、寝息を立てて寝ている歩美さんの布団を無理矢理はいだ。

「ん」

と、小さく声を洩らす。この時点で、もう眉間に皺が寄っている。

俺はそんな歩美さんの耳元でささやいた。

「武田先生が見てるぞ」

そう言った途端にガバッと起き上がった。『武田先生』というのは歩美さんの初恋の相手である。とは言っても幼稚園の話。歩美さんのお母さんから聞いた話だ。

「…………」

歩美さんは無言で周りをキョロキョロすると

「はぁ……」
「おはよう」

歩美さんはだらしなく後頭部を掻きながら小さくため息をついた。

「また反応しちゃったわ」
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