大吉男と大凶女
「どうやっても体が反応しちゃうのよね」

歩美さんは眠そうな目を両手で擦りながら言う。その様子はまるで園児の寝起きみたいだ。

「千里先生、居ないわよね」
「居ないよ」

歩美さんにコートとバッグを差し出す。

「他人の居るとこでやらないでよ?」
「わかってるよ」

差し出されたコートに袖を通しながら、またため息をつく。この手で起こされると歩美さんは落ち込んでしまう。自分でも覚えていない幼少期の出来事で、未だに体が反応するとなれば……それは嬉しくはないだろう。

この事を知られることも嫌い、知ってるのは歩美さんのお母さんと俺んちの家族、あとは歩美さんの友達の真菜(まな)さんくらい。

「千里先生は今昇校口に車つけるって言って出てった」
「そう」

歩美さんはベッドから降りて立ち上がった。熱があるからか若干ふらついた足取りで先に歩きはじめた。

俺は自分のエナメルバッグと歩美さんの手荷物を持ち、少しばかりは、と思い布団を軽く直した。

「先に行くわよ」

カーテンから頭だけ出した歩美さんが言ってきた。

「あ、今行く。病人なんだから少しは大人しくしてろよな」

そう返したが、もちろん後半部分は小声だった。
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