大吉男と大凶女
二人で電車に乗り込む。電車内はやたら混んでいた。俺はせめてもと思い、歩美さんをたまたま入ってすぐ目の前の席が空いていたので座らせた。

俺は歩美さんの目の前に立ち、吊革に捕まり、電車が走るのを待つ。

「エナメルとバッグ持つわよ」

歩美さんがペットボトルを股にはさみ、此方に手を差し出した。が、俺はきっぱりと断った。まぁ本当は強がりだが。

強がりというか、一人よがりというか……

罪滅ぼし、か

今のは恭子をかばいきれなかった不甲斐無さからくる優しさだったか?

もしかしたら心のどこかにそんな気持ちはあったかもしれないが……今は認めない。

なんて思いふけっている内に電車は進み出した。気が付けば歩美さんは、俺の持っていた自分のバッグから携帯を取り出して、いじっていた。

「うわ、これ見て」

携帯の待ち受け画面を見せてきた。そこにはメール三十六通と着信ありが三件の表示。

「皆心配してるんじゃないの?」
「着信は全部お母さんで……メール六通もお母さん。後は色んな人からね。あ、三件は真菜だわ」

どことなく最後は嬉しそうに見えたのは気のせいではないだろう。
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