大吉男と大凶女
「歩美さん、着くよ」
「うん……」

歩美さんはまだ全部のメールを見終わっていない様子だった。携帯とにらめっこしながら立ち上がり、駅に到着した電車から降りる。

「きゃっ」

案の定歩美さんは電車とホームの僅かな段差でつまづいた。

まぁ今回は予想済みである。

俺は歩美さんの体を受け止めた。予想外だったのは歩美さんの後頭部が俺の鼻に直撃したことくらいだった。

と、とりあえず歩美さんを起こして、俺も一緒に電車を降りた。

「いてー」

鼻に異様な熱がこもっていた。鼻血が出るか出ないかの瀬戸際か?

「だ、大丈夫?」

と、歩美さんは俺を労りながらも、俺よりも携帯を心配していた。

「この石頭……」
「え?」
「……大丈夫、行こう行こう。もう早く行こう」
「あ、待って」

投げやりにそう言って俺は早足で歩き出した。鼻から血が出ていないかしきりに確認したが……どうやら出てないみたいで安心した。

歩美さんは後ろをのろのろと着いてきていた。振り向いてみると、歩美さんの足元は大分おぼかつかない様子だった。

電車の中で歩美さんが元気だったので、病人だったことを忘れていた。
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