大吉男と大凶女
「結」

ふと耳元で歩美さんの声がした。

「ん?」

俺は競歩選手さながら、まぁ競歩選手なんて実は見たことないが、全力で早足だった。

「やっぱりね、友達は大事にしたほうがいいわ、うん」
「そんなんはわかってる」

突然そんな事を言い出したもんだから戸惑った。熱のせいかと思ったがそうではないようで……

「卒業したくないなぁ」

と呟いた。鼻をすすりながら。

俺のセーターの右肩がカピカピになっているのに気付くのはこれから先の話だ。

倒れた時はどうしようかと思ったが、普通に話せるみたいなので安心した。もっともまだ油断は出来ないが。

背中には体の火照った歩美さんがいるのと、割と運動になる早足のため、段々俺は熱くなってきて、汗まで出てきた。

そのうちに歩美さんの寝息が聞こえてきたので、俺は速度を落とした。

歩美さんの寝息が耳をくすぐったくさせ、俺にも寒気が走った。まぁ俺の寒気なんかは風邪とは程遠い代物だが。

なんて考えている内に歩美さんの家に到着したのだ……が、鍵が開いていなかった。寝息を立てている歩美さんを起こす訳にもいかないし……。
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