大吉男と大凶女
俺は歩美さんの態勢が崩れないように携帯を取り出す。電話先はすぐそこの俺の家。プルルルルとコール音が流れる。

「なんだよ、まさか誰も居ないのか?」

と、呟いたその時。

「……はぃ、もしもし、よふぃのですけど……」

ガチャ、と誰かが出たかと思いきや欠伸をしながらの対応だった。

「結綺(ゆうき)か?」
「あい、誰ですか?」
「結だ」
「あ、結兄か」
「寝てただろ」
「うん……」

電話越しで目を擦る結綺の姿が頭に浮かぶ。寝てた結綺が電話に出たということは……

「母さんと父さんは居ないんだな?」
「うん、買い物に行った気がする」

気がするって……まぁいいや

「家の鍵閉まってるなら開けてくれ。なんかもう色々と緊急事態なんだ」
「え、うん、わか――」

言い切らない内に電話を切って、自分の家へと急いだ。と、言っても一軒またいで隣向かいなのですぐ着く。玄関に立ってすぐにガチャと鍵を開けた音が聞こえた。

「開けてくれー。手が塞がってるんだ」
「え〜、何したの、よ……え、マジで何事?」

玄関を開けた結綺は俺の期待通りのリアクションを取ってくれた。
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