大吉男と大凶女
太一は気が抜けたように、口をポカンと開けて、一点を見ていた。

太一の顔を見て、太一がそれどころじゃないと気付く。視線を追った先には……なるほど、歩美先輩が居た。

佐々城歩美(ささしろあゆみ)。一つ上の先輩で、野球部の元マネージャー。現状を踏まえ説明すれば、野球部である太一の片思いの相手であり、俺んちのご近所さん。

歩美さんはこちらに気付くと、笑顔で小さく手を振った。俺もそれに対して手を手を振って返したのだが、隣の太一はアホ丸出しで見とれていた。

俺は小さく太一を肘でこづくと、太一はハッとしたように歩美さんへと一礼した。

「…………」
「……おい、大丈夫か?」

太一は礼をした後もずっとボーッとしていたので思わず声をかけた、と思うと太一は泣きそうな目になっていた。

「卒業、かぁ」
「いや、ほら、そんな泣きそうになるなよっ」

さすがに焦った。まさか泣くとは思わなかった。今年十八になるってのに……まぁそれだけ好き、ということなんだろう。

「な、泣いてはねぇよ」

と、説得力がみじんも感じられない言葉で否定した。
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