苦しみの(涙)
ヒュン
空を裂く音が聴こえた。
「あー危ない。」
口調は危ないというより楽しんでいるように聴こえた。
見上げると、龍轍の額の先に兄者の刀が浮いていた。
「ふっふっ、
やはり当たらないか……。雨というのをこんなに恨んだことはないな。」
兄者は水の塊の向こうにいた。
いつもすんなりと兄者と呼べるのに、今の兄者はそれを躊躇わせるふいんきをまとっていた。
雨に濡れた前髪をかきあげ口角をあげて不敵に笑う。
その色気と笑みは、見方を変えれば、もしくはこの場でなかったら見るものを虜にしたかもしれない。