B.B
第二章 神谷優馬は、謎である

魔女の家

翌日、ぼくは神谷さんの家へ行くことにした。乙川環のことを話すためだ。




ぼくは、乙川環のことを誰かに話したくてしかたがなかった。でも、真っ黒なセーラー服の女の子がごろごろ転がって現れた、なんて浮世離れした話を真剣に聞いてくれそうな知り合いは、神谷さんしかいなかった。なぜなら、彼自体が浮世離れした人間だからだ。





ぼくの家から神谷さんの家までの道のりは、遠い。かなり遠い。自転車で行っても、小一時間くらいはかかる。





家からまっすぐ進み、右手に見える角を曲がる。いくつもの田んぼをこえると、雑木林に入る(ここからは自転車だと危険なので、歩いていく)。その雑木林をなんとか抜ければ、そこに神谷さんの家はある。





それはまるで、おとぎ話に出てくる魔女が住んでいるような(といっても、べつに大きかったり、お菓子でできていたりするわけじゃない)家だ。白い煉瓦でできた、かわいらしい洋風の小さな屋敷だ。





そして実際、住人も魔女のように不思議な人なのだ。





ぼくは家のドアを開けた。神谷さんは、ドアに鍵をかけることがまったくない。もっとも、こんなところに家が建っているなんて誰も知らないだろうから、泥棒がくる心配はないのだろう。





洋館なので、靴をぬぐ必要はない。ぼくは土足で廊下を歩き、リビングルームへ行った。神谷さんはいなかった。





そのあと書斎に入ると、長身で線の細い青年の姿が見えた。本棚を整理している。





神谷さんだ。

















< 6 / 10 >

この作品をシェア

pagetop