夜の雨の香りと貴方。







「…っ!!!」


「……逃げんなよ。」



お怒りトーンの声に動揺を隠せなくなってしまう。


掴まれた手首が痛くて、ここから逃げられないと私の頭は理解する。



次第に力が入らなくなってしまい、ズルズルと地面に身体が引き寄せられていった。




「あ。ごめん、強く握りすぎた…………って!!」


静まりかえったマンションの一室から雨の音がよく聞こえる。


そして、目からも雨。

大粒の。


「本当にごめん!泣かないで。」



違くて。



「…赤くなってる。すごく痛かったよね。」



あなたのせいじゃなくて。



「…………っ。」




ひとしきり涙が流れたと思った時。





━━━━━ちゅ





温かいものが唇に触れた。



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