夜の雨の香りと貴方。






「もっと猫っていうから美女なのかと思った。」


残念でしたね不細工で。


「おい猫、コウに遊ばれてポイされるオチなんだからそこらへんわきまえろよ。」

それに直球で。


男の黒髪が揺れて嫌味ったらしい笑みがこぼれた。




「捨てない。絶対に。」

「痛っ。」


片手に持っている缶ビールを男の頭にぶつけるコウさん。

いいぞもっとやれ。



「そんな人間に見える?」


「冗談だって。

今までだって女を家に入れたことすらない。」


「純情ですからっ。」


「それはない。」



淡々と話しているようだけど、2人は信頼し合っている感じが伝わってくる。

相手のこと知り尽くしているみたいで。


入り込めないのが少し悔しい。


あ、いや、いや、入り込む必要も資格もないけど。




「よっこいしょ。」


私の隣には奴がいて、ローテーブルを挟んでコウさんが座る。



「はい、雨音。」

手渡されるコップに入ったサイダー。


「は?なんで俺は缶のまんまなんだよ。」

「准は何本も飲むしコップに入れる意味ないだろ。」

「過保護。ばーかばーか。」

「……ぷふ」


「お前…この猫笑いやがって。」


2人のやり取りがなんだか可愛くてつい笑ってしまった。

准さんって人はコウさんのこと好きなんだろうなーって。



――――むにっ


「い、いひゃい」

ふいに左頬に痛みが走る。


「笑った罰。」


横にひっぱられる頬。

容赦ないなこの人。



「わかった!わかりました!ごめんなさいって!」


緩む痛み。


「はー、痛かったー」


「バカ猫。」


「さっきから、猫じゃない。雨音です。」


「はいはい雨音雨音。」



何そのダルそうな感じ…。


コウさんとは裏腹に血も涙もない奴だ!





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