夜の雨の香りと貴方。
「人の家でいちゃつかないで下さーい。」
チューハイを片手にコウさんがそう言った。
それに私と奴は猛反論する。
「何言ってんの、それはない。笑えない冗談はだめだろ。」
「そうですよ!
ってかコウさん!何大嘘ぶっこいてんですか!?」
やっと、聞きたかったことを言えた。
「え?嘘?」
「サラリーマンって!」
「あ、え?もうバレた?」
「今日テレビ観た!」
「あーなんだ。せっかくDVD勧めたのに。」
「なんで隠したんですか!?」
「いやー、とっさにねー。」
「とっさに?何を目的に?」
「だって………」
そこで言葉を詰まらせた。
「だって、何ですか?」
「てかなんでお前は知らねーんだよ俺らのこと。」
口を挟む准さん。
「テレビ…とか滅多に観られないし。」
「ふーん。」
「そんなに有名なんですか?」
「まあなー。」
「そう…なんですか。」
ああダメだ。
また現実と虚像がグルグルしてきた。
「雨音、俺が芸能人だったら嫌だ?」
ぽつり、コウさんが呟いた。
「へ…嫌っていうか、混乱するっていうか…」
「……そうだよね。でも嫌ではない?」
「嫌も何もコウさんはコウさんで最初から変わりな…」
自分で言って気がついた。
そうだ、変わりない。
何に対して私は混乱して怯えているの?