狼少女と王子様



今まで聞いた中で一番


優しい声




大嫌いな男の前だけど

どうしても思いが溢れて


私は涙を流した




「ばかぁー。」



どうして?


そんなに優しいの?




あの頃にはもう戻れないんだよ?




優しくしてもらう理由なんて

ひとつも無い




むしろ恨まれて当然なのに





渓は頭をポンポンっと撫でながら


私が泣き止むまでずっと

抱きしめてくれた





渓の甘い香りが気持ちを落ち着かせる




「落ち着いた?」


「・・・・。」



ドクンッ


ドクンッ



静まれ!



「茜?」


「名前で呼ぶな!

それに関わるなって言っただろ。」



胸の鼓動が渓に聞こえてしまいそうで

緩んだ渓の腕をすり抜ける




「茜、強がっていること

俺には分かるからな。」



強い眼差しが

痛いほど私に降り注ぐ


< 55 / 100 >

この作品をシェア

pagetop