秋月紀行
プロローグ
その壱
「ねぇねぇ。……って店、知ってる?」
「知ってる知ってる!たしか……にあるんでしょ?」
どこにでもありそうな女子高生の会話。
しかし彼、神六高校1年の水谷冬真は、その会話を耳を澄まして聞いていた。
女子高生の会話は、耳を澄まさなくては聞き取れないからだ。
いや、そんな事よりも、男子高校生である彼が、女子高生の会話を盗み聞きしているのが、問題な訳であるが。
「じゃー今度行ってみない?」
「えーやだよー。ちょっとあそこ怖くない?」
その時、冬真はコンビニでショートケ-キを買うために、レジに並んでいた。
(このケ-キは極度の甘党の同居人のためのものだ。俺が食べるんじゃない。)
笑いを堪え、レジを打つ店員に、心の中で必死に訴えていた。