秋月紀行
『……今日はひとまず家に帰って下さい。』
冬真は優しく依頼者に話かけた。
「はい…。あっあの……」
彼女は、何か言いたげに冬真を見た。
『あっ、自己紹介がまだだった。俺は水谷冬真。そしてこっちが、自称名探偵の山村秋斗。』
『自称はヨケイ。立派な名探偵。』
秋斗は、少し不機嫌な声で訂正した。
『はいはい。ちなみに、俺はその立派な名探偵様の助手をやってるんです。
だから何かあったら俺に連絡して下さい。はい、電話番号。』
そう言って冬真は、彼女に一枚のメモ用紙を渡した。
「ありがとう。あっ、私は和泉楓っていいます。どうぞよろしくお願いします。」
彼女はこのとき、初めてにっこり笑った。