秋月紀行
第壱章
Ⅰ
短く切ったばかりの黒い前髪を、ケーキの入ったスーパーの袋を持った逆の手でいじりながら、冬真は重い足取りで歩いていた。
そして一軒の喫茶店の前で足を止めた。
喫茶店『愛欄努』
そう書いた看板は斜めに傾いている。
誰がどう見ても不気味だと思うだろう。
冬真は、その不気味な喫茶店へと足を踏み入れた。
『ただいま、秋斗。
ケーキ買ってきたよ。』
冬真が声をかけた青年は、テレビのニュ-スを見ていた。
『何か事件?』
『うん。また同じだよ。これで3件目。』
「昨夜、○○市△区××倉庫付近で、またもや刺殺体が発見されました。警察の調べでは…」
冬真は、自分の働く店のカウンターに座り、小さなテレビを見た。
『秋斗。この事件どう思う?』
『…ん?』
『だーかーらー。このニュースの3つの事件だよ。』
『んー?べつにー。
……いただきまぁっす。んーおいし~!!やっぱりケーキは最高だね。』
(まったく、この人は…。)
冬真はため息をついた。