短篇集
先輩の死んだ日
先輩が死んだ。

本当に素敵な人だった、という。可愛くて、勉強ができて、おまけにスポーツも得意だった。高校三年生のときに骨肉腫になって一年休学したあと、東京の女子大に入学したそうだ。

私はこのふたつ上の先輩のことを、ほとんど知らない。重い病気を患う生徒がいると聞いたことはあったが、名前や顔は知らない。まして話したことなど一度もない。

放課後、喪服を来た先生や卒業生たちがいそいそ学校に戻ってきて、たいそう暗い顔でぼそぼそ話し合っているのを、私は校舎の二階から発見した。一ヶ月後に大学受験を控え、私は学校で自習していたのである。教室から飛び出てると、ぐしょぐしょの顔で屋外の電話ボックスから出てきた先生をつかまえ、私は事情を知ったのだった。

ぐしょぐしょ顔の先生がぽつりぽつりと口にする病名だとか、思い出だとかは、抜けるような青い空に、ひゅうと吸い込まれていった。

まだ恋も勉強も、したかっただろうに。

先生が悲しそうに呟くことばは、やっぱり空に吸い込まれていく。ひゅう、ひゅう。

先生は、がんばりなさいと私の肩を叩いた。
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