短篇集
「よーうこちゃん」
はっとして振り向くと、同級生の広美が立っていた。
「おベンキョ、はかどってますか」
そういいつつ、肩までのストレートヘアをかきあげながら、隣の席に腰掛ける。
「ぜんぜん、だめだよ」
「ふぅん」
広美はすでに、第二志望の私立大学に特待で合格している。国立大学にも出願したが、やる気がどうも沸かないらしかった。
「蓉子ちゃん」
「何?」
「私、疲れちゃった」
「うん」
「受験勉強とか、これからの人生とか、そういうのに」
分かるよ広美、と言おうとしたが声にならなかった。分かるよ、という顔をしながら、死んだ先輩のことを考えていたからだ。
「蓉子ちゃん」
「何?」
「澤野先輩の、お葬式」
「うん」
「行ってきたよ」
「そう」
「かなしい」
そうだった、広美は、先輩と同じテニスクラブに入っていたはずだ。私は広美を気の毒に思った。
「コツニクシュだってね」
「うん」
それっきり広美はうつむいて、押し黙ってしまった。すすりあげる音がしたので広美にハンカチを差し出そうとしたが、泣いているのは私だった。
「かなしいね、広美」と言いつつ、私はハンカチで頬を伝う涙を拭く。
「かなしいよ、蓉子ちゃん」と、広美も目を真っ赤にして、おうむのように返してくれる。
「広美」
「何?」
ついせんだって私が考えていたことを、広美にも聞いてみようと思ったのだった。
「人って死ぬとき、なにを考えると思う」
「死ぬとき…」と、広美は視線を泳がせた。
「人によって違うと思うけど」
「そりゃそうだね」
「幸せなこと、考えるんじゃないかな、大概の人は」
「そう思う?」
「うん」
「そうだったら、いいな」
「うん」と、広美は真っ赤な目をしばたかせて、ちょっと笑った。
広美のそのことばは、真偽はどうであれ、生きている者への福音だ。
わかんないけどね、と付け足しながら、広美は窓の外に目をやる。
地平線いっぱいにひろがる中都市を、真っ青な空が優しくつつみこんでいる。
かえすがえすもきれいな空だなぁと、思った。
はっとして振り向くと、同級生の広美が立っていた。
「おベンキョ、はかどってますか」
そういいつつ、肩までのストレートヘアをかきあげながら、隣の席に腰掛ける。
「ぜんぜん、だめだよ」
「ふぅん」
広美はすでに、第二志望の私立大学に特待で合格している。国立大学にも出願したが、やる気がどうも沸かないらしかった。
「蓉子ちゃん」
「何?」
「私、疲れちゃった」
「うん」
「受験勉強とか、これからの人生とか、そういうのに」
分かるよ広美、と言おうとしたが声にならなかった。分かるよ、という顔をしながら、死んだ先輩のことを考えていたからだ。
「蓉子ちゃん」
「何?」
「澤野先輩の、お葬式」
「うん」
「行ってきたよ」
「そう」
「かなしい」
そうだった、広美は、先輩と同じテニスクラブに入っていたはずだ。私は広美を気の毒に思った。
「コツニクシュだってね」
「うん」
それっきり広美はうつむいて、押し黙ってしまった。すすりあげる音がしたので広美にハンカチを差し出そうとしたが、泣いているのは私だった。
「かなしいね、広美」と言いつつ、私はハンカチで頬を伝う涙を拭く。
「かなしいよ、蓉子ちゃん」と、広美も目を真っ赤にして、おうむのように返してくれる。
「広美」
「何?」
ついせんだって私が考えていたことを、広美にも聞いてみようと思ったのだった。
「人って死ぬとき、なにを考えると思う」
「死ぬとき…」と、広美は視線を泳がせた。
「人によって違うと思うけど」
「そりゃそうだね」
「幸せなこと、考えるんじゃないかな、大概の人は」
「そう思う?」
「うん」
「そうだったら、いいな」
「うん」と、広美は真っ赤な目をしばたかせて、ちょっと笑った。
広美のそのことばは、真偽はどうであれ、生きている者への福音だ。
わかんないけどね、と付け足しながら、広美は窓の外に目をやる。
地平線いっぱいにひろがる中都市を、真っ青な空が優しくつつみこんでいる。
かえすがえすもきれいな空だなぁと、思った。