ヒロインになれない
お料理が次々に運ばれ…あとは、ご飯とデザート。
彼は結局、やって来ない…
「すみません、遅刻して。」
綺麗な声が響いた。
真があってスッと通るテノール。
低すぎない、甘い声。
「遅いぞ、紫輝!!」
おじ様が怒鳴る…だけど、おじ様もお父様もお酒を飲みすぎて十分に酔っ払っていた。
「酔っ払いの親父になんて怒鳴れたくない。それに、俺は今日…阿木家の皆さんとお食事しに来たのでは、ありません。」
彼の口から出る言葉は綺麗な顔とは違い、少し乱暴で…丁寧に話そうと頑張っているのが汲み取れた。
「紫輝っ!!お前、何を言おうと!」
「親父、それに阿木家の皆さんに千鶴さん。」
「!」
初めて、彼に名前を呼ばれ…心臓が大きく揺れた。