雪・時々晴れ
-伊丹空港-


「お前はよ大阪に帰って来いや!」


空港まで迎えに来た栄治は“COMPLEX”の曲が響く車内で言った。


「そやな、もう半年経つな…でも直ぐには無理やって…」
 

「なんで?」


「だって、引越しするお金なんか全然貯まってないもん」


「…!!」


それもそのはずだ。
ひと月に一度、新潟-大阪間を往復する旅費だけで、給料の三割は消えていく。


増してやデートの費用は殆ど私持ちであった。
遠距離恋愛にイライラする栄治に対して


「って言うか、あんたが何とかして~や!」


とは言えずに居た。というのは特に結婚を意識したことも無かったし、自分の趣味や遊び事だけにお金を使う栄治に愛想が尽きかけていた…。


大阪へ来た時は毎回二泊していた。
彼の両親と弟と同居する一軒家にいつも泊まらして貰っていた。


休日の土日を含め金曜日か月曜日に有給をとり、一月に一度は三連休を必ず取る私の身にもなって欲しいものだ。会社では剣道何段かの女子社員にイヤミをたっぷり言われたりもした。



「なぁ栄治ぃー。私…今度はいつ来るかわからんで」


「何でやねん!」


「もーお金無いし。」


「……解った。」


「うん。ほんじゃ~な。」


栄治には逢わない理由をお金のせいにした。


嫌気がさしていた理由は他にもあった。


栄治が高校を卒業して社会人になったとき、同僚の女子社員と意気投合し、付き合う事になったから別れて欲しいと言われて、むかついた私は気軽に「いいよ」と離れたことがあった。


栄治はたったの二週間で戻って来て元のさやに納まったけれど、私の心はもうどうしようもなく虚しくなっていた。


付き合って4年目の二人の間には隙間が沢山あった。
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