雪・時々晴れ
「佐伯さん、久しぶりだねー」


「…ですね~、転勤先って店舗でしたっけ?」


「そ~そ~新潟店、他店も回るけどね。エリアマネージャーみたいなものだよ」


「へー…」(はいはい。えらいえらい。あんたはえらい。)


何とか坂井課長から離れようと必死だった。


ここは以前小田君と行ったスキー場とは比べ物にならないほど広かった。


コースも沢山あるのに、なだらかな中級コースでさえギャーギャー言ってる私に逃げれるすべなど無かったが、あまりのうるささに坂井課長はどこかに消えた。


(ほっ。良かった)


「佐伯さん、関西弁いいじゃん!なんかいいじゃん」


大阪弁丸出しで怖がっている私を見て剣道女が言った。


普段会社ではほとんど標準語で喋っていた私に剣道女はよそよそしさを感じていたのだろう。なんとなく嬉しかった。


長谷部さんは私より初心者だった。新潟の子でもスキーやってない子が居るんだなと少し親近感を感じた。


ペースが同じなので自然と一緒に滑っていた。


何度かコースを滑った後、二人で休憩所で喋っていた。


長谷部さんは私の腕をガン見しているので何かと思ってふと目をやると、こないだ小田君と行ったスキー場のリフト券をそのままにして上から今日の分を被せて入れたものだから透けて見えそうになっていた。


(やばーーーーい)


何も言わないで見つめ続ける彼女に何か言わないとまずいと思い「なに?」と言った。


「何か透けて見える~」


「あ~昔行ったスキー場のリフト券かな?そのままにしてた…」


白々しく言った。


「ふ~ん」


と怪しいなぁと言わんばかりの口ぶりに


(たぶん、行った場所はバレたな…)と思った。


何故なら彼と行ったスキー場は葡萄峠(ぶどうとうげ)という名称で字画が多いし太字で大きく印刷されてあったし地元の子なら直ぐに解ってしまうはずだから。


これ以上話すとまずいと思い話をそらした。


「そろそろ、もう一回滑る?」


「え~もういいよ~お昼ご飯終わるまでここに居たい」


一人で滑るのも何だし一緒に皆を待つことにした。


当然話題は変えて。
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