黒き藥師と久遠の花【完】
    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「みなも、ここ最近やけに機嫌がいいな」

 作った薬を一緒に兵営へ運んでいる最中、浪司がニッカリ笑いながらみなもへ話しかけてきた。
 みなもは首を傾げながら、浪司を横目で見る。

「いつも通りにしてるんだけど、そんなに機嫌よさそうに見える?」

「だってなあ、みなもと知り合ってから今まで薬を調合してる時は、表情一つ変えずに作ってるところしか見たことなかったんだぜ? それなのに、ここ数日は作ってる最中に何度も笑ってんだよ。そりゃあもう幸せそうっていうか、満たされているっていうか……」

 ここ数日――思い当たる節がありすぎて、みなもは息を詰まらせる。

 初めて交わったあの日から、レオニードと一緒に眠るようになった。
 何度も肌を重ね合っているが、未だに恥ずかしくて慣れない。
 ただ、その後に抱き締められながら眠り、目覚めた時に彼の顔を間近に見れることが、何よりも嬉しくて幸せだと思う。

 薬を調合している最中、何度もそのことを思い出し、胸を温かくしていた。
 きっとこれが原因なんだろうと、みなもは小さく苦笑した。

「あんまり自覚はないんだけど、多分、毎日いろんな人と会ってるせいかな? 今までずっと一人で住んでいて、小屋に来る人も疎らだったし、話ができるだけでも嬉しいものだからね」

 苦しい言い訳だとは思ったが、本当のことを言う訳にもいかない。
 誤魔化そうとするこちらの意図に気づいているのか、浪司は愉快げに目を細める。

「案外、誰かさんと噂通りになったから、喜んでたりして」

 ……ああそうだった。野生の勘は凄まじいよね、この熊さんは。

 心の中で皮肉ってから、みなもは「そんな訳ないだろ」と素っ気なく答える。
 まだ浪司はからかいたそうだったが、兵営が間近になり「そういうことにしておいてやるよ」と引き下がってくれた。




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