黒き藥師と久遠の花【完】
兵営の藥師たちに薬を渡した後、みなもは負傷兵たちの手当てに取りかかった。
手際よく包帯を取り替え、傷が膿んでいれば専用のナイフで鮮やかに取り出す。
数人こなした後に、「みなもさーん」と呼ばれて振り向く。
そこには回復に向かっていることが一目で分かるくらい血色良くなったボリスが、みなもを手招いていた。
「ボリスさん、どうされましたか?」
みなもがボリスの枕元まで行くと、彼は急に辺りをキョロキョロと見渡した。
「……レオニードのヤツは?」
「今、マクシム陛下に呼ばれていますよ。もうしばらくで戻ってくると思いますけど」
「ああよかった。レオニードに見つかったら取り上げられそうだし、今の内に渡さないと」
ガサゴソとボリスは枕の下を探り、一通の白い封筒に入った手紙を取り出した。
「これ、兵士仲間から君に渡して欲しいって言われたんだ。どうしても自分の想いを伝えたいんだってさ」
差し出された手紙を見て、みなもは顔が引つりそうになる。
「あの、もしかしてそれは――」
「恋文らしいね。ただ、あくまで想いを知って欲しいってだけで、付き合って欲しいとか、返事が欲しいとか、そんな内容じゃないって言ってたよ。それから、読んだ後は燃やしてくれって」