黒き藥師と久遠の花【完】
 同姓相手に恋文……なんて勇気のある人だろう。
 確かにこれがレオニードに見つかれば、開ける前に破いて捨てられそうだ。
 
 みなもは目元を和らげ、「読むだけなら」と手紙を受け取って懐へしまう。

「分かりました、読んだ後に燃やしておきます。……レオニードに見つからない内に」

「ありがとう。これがバレたら、僕もレオニードに責められるだろうなあ。アイツは怒らせると怖いから」

 二人でひとしきり笑い合うと、みなもはボリスと別れ、新たな薬を取りに行こうと廊下へ出る。
 そして歩きながら懐から手紙を取り出すと、ナイフで封を切り、中身に目を通した。

 見た瞬間、みなもはその場に立ち尽くす。

 何度も、何度も、文面を読む。
 どれだけ読み返しても、その内容が変わることはなかった。

 しばらく固まっていると、後ろから「おーい」と浪司の声が聞こえてきた。

「ワシも手伝えばいいか……って、どうしたんだ? そんな所に突っ立って」

 この手紙は、誰にも知られてはいけない。悟られてもいけない。

 みなもは動揺を笑顔で消しながら、落ち着いた手つきで手紙を封筒に戻し、懐へしまった。

「さっきボリスさんから貰った手紙を読んでいたんだ。解毒剤を作ってくれてありがとう、だってさ」

 浪司は「んん?」と訝しげな声を出したが、すぐにいつもの調子を取り戻し、みなもの背中を叩いてきた。

「感謝されて良かったな。ワシも手伝ってんだから、誰か書いてくれんかな」

「時間が空いたら俺が書いてあげるよ。浪司には手伝ってもらってばかりだからね」

「……同情で書いてもらっても嬉しくないぞ」

 そんなやり取りをしながら、みなもは浪司と並んで歩いていく。

 上辺だけはいつも通りを演じていく。
 けれど頭の後ろのほうが、靄がかり、重くなっていく。
 頭が寝ている訳でもないのに、目の前に映るものに現実味を感じられなかった。

 これが夢ならいいのに。
 目覚めればレオニードの腕の中で、挨拶がわりの口づけを交わし、「嫌な夢を見た」と言えればいいのに。

 夢と現実が入れ替わるような錯覚を覚えながら、みなもは乾いた唇を湿らせた。
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