黒き藥師と久遠の花【完】
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 城の裏手にある広大な庭園は、まだ花こそ咲かないものの、手入れの行き届いた常緑の木々が植えられており、訪れる者の心を和ませてくれる。

 王侯貴族のみが立ち入ることを許された場所だったが、護衛という名目を与えられ、レオニードはマクシムとともに庭園へ足を踏み入れていた。
 かすかに吹く風は冷えていたが、日差しを遮る雲はなく、太陽の温もりが心地良い午後だった。

 前を歩いていたマクシムが、足を遅めてレオニードへ振り返る。

「すまないな、余の散歩に付き合わせて」

「いえ、陛下とご一緒できて光栄です」

 臣下の立場をわきまえて答えたのだが、マクシムはムッと唇を尖らせた。

「まったく……周りに人がおらぬ時ぐらいは、その堅苦しい態度は止めろ。お前は余の大切な幼なじみなのに」

 子供の頃、近衛兵だった父に城へ連れられ、王子だったマクシムの遊び相手をつとめていたことがあった。
 その時やけに気に入られて以来、成長して王位についた今も、幼い頃と変わらず友人であると言ってくれる。

 それがレオニードにとって嬉しくもある反面、態度に困ってしまう。

 戸惑いを隠せないレオニードを見て、マクシムが肩をすくめた。

「まあいい。今日はお前をからかうために呼び出した訳じゃないからな、これぐらいで勘弁してやる」

 微笑を浮かべておどけた空気を出した後、すぐにマクシムは真面目な顔つきへと変わる。

「フェリクス将軍の解毒剤を、みなもが作ってくれたそうだな」

「……はい。彼がいなければ、手遅れだったと思います」

「また同じ毒が使われれば、次もみなもに頼らなくてはいけないのか。……彼には助けられっぱなしだ」

 マクシムは腕を組み、一人でうんうんと頷き、レオニードを横目で見つめる。

「今みなもがいなくなれば、戦況が大きくヴェリシアの不利になることも考えられる。仲間を探している彼には悪いが、この地にいてもらわねば困る。それにバルディグの密偵がみなものことを知れば、暗殺に乗り出してくるかもしれぬ」

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