黒き藥師と久遠の花【完】
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
城の裏手にある広大な庭園は、まだ花こそ咲かないものの、手入れの行き届いた常緑の木々が植えられており、訪れる者の心を和ませてくれる。
王侯貴族のみが立ち入ることを許された場所だったが、護衛という名目を与えられ、レオニードはマクシムとともに庭園へ足を踏み入れていた。
かすかに吹く風は冷えていたが、日差しを遮る雲はなく、太陽の温もりが心地良い午後だった。
前を歩いていたマクシムが、足を遅めてレオニードへ振り返る。
「すまないな、余の散歩に付き合わせて」
「いえ、陛下とご一緒できて光栄です」
臣下の立場をわきまえて答えたのだが、マクシムはムッと唇を尖らせた。
「まったく……周りに人がおらぬ時ぐらいは、その堅苦しい態度は止めろ。お前は余の大切な幼なじみなのに」
子供の頃、近衛兵だった父に城へ連れられ、王子だったマクシムの遊び相手をつとめていたことがあった。
その時やけに気に入られて以来、成長して王位についた今も、幼い頃と変わらず友人であると言ってくれる。
それがレオニードにとって嬉しくもある反面、態度に困ってしまう。
戸惑いを隠せないレオニードを見て、マクシムが肩をすくめた。
「まあいい。今日はお前をからかうために呼び出した訳じゃないからな、これぐらいで勘弁してやる」
微笑を浮かべておどけた空気を出した後、すぐにマクシムは真面目な顔つきへと変わる。
「フェリクス将軍の解毒剤を、みなもが作ってくれたそうだな」
「……はい。彼がいなければ、手遅れだったと思います」
「また同じ毒が使われれば、次もみなもに頼らなくてはいけないのか。……彼には助けられっぱなしだ」
マクシムは腕を組み、一人でうんうんと頷き、レオニードを横目で見つめる。
「今みなもがいなくなれば、戦況が大きくヴェリシアの不利になることも考えられる。仲間を探している彼には悪いが、この地にいてもらわねば困る。それにバルディグの密偵がみなものことを知れば、暗殺に乗り出してくるかもしれぬ」
城の裏手にある広大な庭園は、まだ花こそ咲かないものの、手入れの行き届いた常緑の木々が植えられており、訪れる者の心を和ませてくれる。
王侯貴族のみが立ち入ることを許された場所だったが、護衛という名目を与えられ、レオニードはマクシムとともに庭園へ足を踏み入れていた。
かすかに吹く風は冷えていたが、日差しを遮る雲はなく、太陽の温もりが心地良い午後だった。
前を歩いていたマクシムが、足を遅めてレオニードへ振り返る。
「すまないな、余の散歩に付き合わせて」
「いえ、陛下とご一緒できて光栄です」
臣下の立場をわきまえて答えたのだが、マクシムはムッと唇を尖らせた。
「まったく……周りに人がおらぬ時ぐらいは、その堅苦しい態度は止めろ。お前は余の大切な幼なじみなのに」
子供の頃、近衛兵だった父に城へ連れられ、王子だったマクシムの遊び相手をつとめていたことがあった。
その時やけに気に入られて以来、成長して王位についた今も、幼い頃と変わらず友人であると言ってくれる。
それがレオニードにとって嬉しくもある反面、態度に困ってしまう。
戸惑いを隠せないレオニードを見て、マクシムが肩をすくめた。
「まあいい。今日はお前をからかうために呼び出した訳じゃないからな、これぐらいで勘弁してやる」
微笑を浮かべておどけた空気を出した後、すぐにマクシムは真面目な顔つきへと変わる。
「フェリクス将軍の解毒剤を、みなもが作ってくれたそうだな」
「……はい。彼がいなければ、手遅れだったと思います」
「また同じ毒が使われれば、次もみなもに頼らなくてはいけないのか。……彼には助けられっぱなしだ」
マクシムは腕を組み、一人でうんうんと頷き、レオニードを横目で見つめる。
「今みなもがいなくなれば、戦況が大きくヴェリシアの不利になることも考えられる。仲間を探している彼には悪いが、この地にいてもらわねば困る。それにバルディグの密偵がみなものことを知れば、暗殺に乗り出してくるかもしれぬ」