黒き藥師と久遠の花【完】
 言われてレオニードは目を細める。
 指摘されるまでもなく、みなもが解毒剤を作った時から心配していたことだ。

 治療できるはずのない毒を治してしまったのだ。恐らくはすでに調べ上げられているだろう。
 そして、みなもがバルディグに仲間がいることを確信したように、毒を作った人間にも伝わっているはず。

 暗殺も考えられるが、仲間に会いたいからと、みなもをここから連れ出そうとすることも考えられる。
 どちらにしても、みなもを奪われる訳にはいかない。

 レオニードは覚悟を改めると、軽く拳を握った。

「事情を伝えれば、みなもはこの地に残ってくれると思います。後は……私が命をかけて彼を守ります」

「うむ、頼んだぞ」

 重々しく頷いてから、マクシムはこちらの顔をまじまじと見つめてきた。

「ど、どうされましたか?」

「先日、侍女たちの話を聞いてしまったんだが――」

 ……なぜだろう。嫌な予感がする。

 レオニードが顔をしかめそうになるのをこらえていると、マクシムの目が好奇の色に光った。

「お前、みなもと恋人同士になったらしいな。本当なのか?」

 この人のところまで噂が広がったのか。……恨むぞ、浪司。

 浪司の悪びれもなく笑う顔を思い出し、激しく抗議をしたい気分でいっぱいだ。
 が、今はどうマクシムに答えればいいか、考えることが先決だった。

 必死に頭を働かせるレオニードの肩を、ぽんとマクシムが叩いてくる。

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