黒き藥師と久遠の花【完】
「本っっっっ当に、嘘のつけないヤツだな。侍女たちがただ騒いでいるだけだと思っていたが、まさか事実だったとは……ちょっと驚いたぞ」

「なっ!? い、いえ、そんな噂があったことに驚いただけで――」

「もしこれが事実じゃなかったら、お前は即座に否定している。答えに躊躇すること自体が不自然なんだよ。まさかお前みたいな真面目な堅物が、男と恋仲になるとは思わなかったがな」

 慌てて反論しかけて、レオニードは口を噤む。

 まだみなもは女性であることを隠したがっている。
 夜を共にした時、自分の弱さを人に見せたくないと言っていた。
 ようやく得られた彼女の信頼を、裏切る訳にはいかない。

 すごく、すごく不本意だったが、レオニードは「嘘をついて申し訳ありません」と謝罪した。
 素直に受け入れてみたが、それでもマクシムが首を傾げる。

「まだ何か隠しているような気はするが……当然だな、相手が相手だ。知られたくないことも多いだろう。安心しろ、これ以上は詮索せぬ」

 確かに隠していることはあるが、見当違いで助かった。
 わずかに安堵しながらも、いつか誤解が解ける日がくるのだろうかと、レオニードは思う。

 もっと彼女が警戒を解いて、楽に生きられる日が来るといいんだ。

 ありのままの姿で自分の隣にいてもらえるなら、どんな苦労もいとわなかった。
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