黒き藥師と久遠の花【完】
    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 みなもはレオニードとともに城を出ると、真っ直ぐに伸びた石畳の通りを進み、中央の広場へと向かう。
 広場の中央には、勇猛に馬を駆らせるヴェリシアの英雄の銅像が佇み、民の日常を見守っている。そんな英雄の庇護を求めるように、広場の周りには食料や日常雑貨を扱った店が集まっており、いつも賑わいを見せていた。

 みなもは並んで歩いていたレオニードの袖を小さく引っ張り、遠くに見える山を指さした。

「あの山に日が沈みかける頃に、この銅像の前で落ち合おう」

「分かった。滅多なことはないと思うが、くれぐれも用心してくれ」

 心配げな顔で、レオニードが小声でつぶやく。

 彼が何を心配しているのかは察しがついている。
 ここが城下町だからといって安全という訳ではない。バルディグの密偵なり、内通者なりがいて、解毒剤を作った自分を始末するかもしれないと思っているのだろう。

 あまり心配させたくないと、みなもはわざと勝気な笑みを浮かべた。

「安心してよ、いつでも毒を使う準備は出来ているから」

 少し面食らったようにレオニードは目を丸くした後、大きく息をついた。

「そんな物騒な物を常に持つのはどうかと思うが……万が一の時は、躊躇せずに使ってくれ」

「もちろん。今までそうやって生きてきたからね」

 みなもは片目を閉じてから「じゃあ行ってくるよ」と、レオニードへ手を振りながら離れていく。

 衣料店の前まで行くと、みなもは足を止め、レオニードを伺う。
 こちらに視線を送っていたが、どの店に入るかを確認して安堵したらしく、彼も目的の店へと向かって行った。

 その背を見た時、みなもは己の胸元を掴んだ。
 
(……ごめん、レオニード)

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